熱傷は恐ろしい
京都アニメーションの事件からまだ日も浅く、関係者の方々の心痛は察するに余りあるところです。
我々医療者は、このような辛い事件を含めて全ての事から学び、次の医療に活かしていかねばなりません。日も浅いため不快に思われる方もいらっしゃるかと存じますが、私なりの考察を述べ、少しでも役にたつ情報を発信したいと思います。中でも、熱傷の怖さについて少し解説します。
爆発火災での受傷形態
一般に爆発火災で死に直結する因子は3パターンあります。1つ目は一酸化炭素中毒、2つ目は爆発による鈍的・鋭的外傷、3つ目は熱傷です。
これらが重複することも多々あり、例えば一酸化炭素中毒で意識レベルが低下してしまい、避難行動が取れずにさらに受傷してしまうということがあります。
トリアージが行われるような多数傷病者の状況において、現場で心肺停止が確認された場合はトリアージ黒となり不搬送の判断となります。爆発火災において救命救急センターに搬送されるのは生命徴候のある重症者であることが多く、熱傷患者も多数存在します。特に熱傷は致死的な重症度であっても数時間〜数日程度生命維持ができ、病院搬送時には意識もはっきりしているということがあります。
熱傷の重症度
熱傷はその深さにより4つの深度に分類され、深度と範囲で重症度分類が行われます。
*日本創傷外科学会ウェブサイトより転載
http://www.jsswc.or.jp/general/yakedo.html
熱傷の範囲(面積)は、面積の絶対値ではなく全身の体表面積の何%を受傷しているかで表します。Ⅲ度熱傷でも範囲が狭ければ生命維持には支障が少なく、Ⅱ度熱傷でも範囲が広いと支障が生じます。
熱傷の重症度を表す指数として、Burn Index (BI)という数値が用いられており、下記の式で求めます。
BI = 1/2*(Ⅱ度熱傷面積%) + (Ⅲ度熱傷面積%)
また、熱傷患者の生存率に関連する指数として、Prognostic Burn Index (PBI)という数値があり、
PBI = BI + 年齢
で求めることができます。
PBI80未満であれば適切な治療により生存が期待できますが、80を超えると徐々に死亡率が高まり、100以上では致命的となりやすく、120以上では救命不可能とされています。
熱傷受傷後の経過
熱傷では、受傷直後よりも時間経過により全身状態が悪化するというケースが多々あります。受傷後2−3日の間は主に脱水や血液凝固異常(DIC)、多臓器不全が問題となり、そのヤマを越えると感染との戦いになります。
致死的な広範囲熱傷であっても受傷直後は生命維持できていることがあり、病院に搬送されてきたときには意識もはっきりしているということがあります。しかし、そこからいくつものヤマを越えなくてはいけないのです。
筆者は整形外科医ですので最近ではあまり熱傷患者をみることがなくなりましたが、過去に勤めていた病院では、搬送されてきた際には意識がはっきりしていて受傷したときのこともきちんと話してくださっていた患者さんが、2日後に多臓器不全で亡くなったということもありました。
熱傷の治療
先にも書いた通り、熱傷は熱傷そのものの治療も必要ですが、それ以上に生命維持のための全身管理が重要です。
初期に起こる脱水に対しては点滴での補液が行われます。必要な量は下記のBaxterの式で求めることができます。
(輸液量ml)=4×(熱傷面積%)×(体重kg)
体重60㎏の人が面積30%の受傷であれば、輸液量は7200mlとなります。
この輸液量のうち半分を最初の8時間で、残りの半分を次の16時間で点滴します。
熱傷そのものに対しては外用軟膏などでキズとしての治療を行いますが、四肢の全周性の高度熱傷などの場合は減張切開術が行われることもあります。
最初の脱水の山を越えたら、次は感染との戦いです。
皮膚は外部環境との境目であり、普段はバリアの役割を果たしています。そのために少々汚いものを触ってもひどい感染症になることは稀ですし、洗えば済むことが多いです。しかし、熱傷で皮膚バリア構造が破綻していると、外部環境の細菌が容易に感染を引き起こしてしまいます。
これらの脱水や感染のコントロールができないと多臓器不全やDICが引き起こされ、生命維持困難となってしまいます。
これらを乗り切ってもなお熱傷後のケロイド、瘢痕治療など、年単位での治療が必要になります。
①熱傷は面積と深さで重症度が決まる
②熱傷そのものだけでなく、脱水や感染との戦いが重要