予後不良疾患である大腿骨近位部骨折
大腿骨近位部骨折は大腿骨の股関節側で折れるタイプの骨折で、主に頚部骨折と転子部骨折があります 。
若い人が大腿骨近位部骨折を受傷するのは稀で、交通事故などの高エネルギー外傷であったり骨系統疾患を罹患していたりなど特殊なケースになります。一方、高齢者においては非常に多い骨折で、単なる転倒、しりもちをつく程度のことで受傷してしまいます。
加齢による骨粗鬆症が背景にあり高齢化とともに増える
高齢者がちょっとした転倒などで受傷してしまうのは、加齢によって骨粗鬆が起こっていることが原因です。2015年の骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインによると、大腿骨近位部または脊椎椎体の脆弱性骨折がみられるものは骨粗鬆症と診断すると定まっており、骨粗鬆症と大腿骨近位部骨折が密接に関連していることがわかります。
当然高齢者が増加するのとともに発生数は増加します。2012年は17.6万人程度が発症しており、予測値によると2020年には24万人、2030年には32万人が発症すると見込まれます。
- International Osteoporosis Foundationよりhttps://www.iofbonehealth.org/sites/default/files/media/PDFs/Regional%20Audits/Asian_Audit-Japan-profile%5BJP%5D.pdf
大半の患者に手術が推奨される
大腿骨近位部骨折はまさに足の付け根の受傷であり、骨折すると歩行はおろか座ることすら困難になるケースが多くあります。大腿骨近位部は骨癒合するまで4ヶ月程度を要するとされており、さらに骨癒合不全となる可能性も高いといわれています。そのため、手術に耐えられないような状態でない限りは基本的に手術治療を行います。
手術の細かいことは今回は省略しますが、手術の目的は運動能の獲得です。放置すれば寝たきりか良くて車いす生活ですので、そうならないために早期手術を行ってリハビリと自宅退院につなげていきます。
生命予後は不良である
大腿骨近位部骨折後の1年生存率は日本の報告で90%程度、諸外国の報告では70-90%程度となっています。いくつかの悪性腫瘍の5年生存率はすでに90%を超えるかそれに迫る状況ですので、大腿骨近位部骨折の1年生存率がいかに低いかお分かりいただけると思います。
骨折が直接的に死亡原因となることは稀で、肺炎などの感染症や心疾患、脳血管疾患などで死亡するケースが多々あります。これらの疾患はまさに日本人の死因の上位となっている疾患であり、特殊な亡くなり方というではなくむしろ普通の亡くなり方です。つまり、低エネルギーで大腿骨近位部骨折を起こす患者さんは寿命が近いということなのです。
早期死亡のリスク因子としては高齢、受傷前の歩行能力低下、認知症、男性といったものが判明しています。男性は通常女性よりも骨の強度に優れていますが、その男性が脆弱性骨折を起こすということはそれだけ加齢して全身状態が悪化しているということなのです。その他のリスク因子はイメージしやすく、いずれも状態不良に繋がるものばかりです。やはり大腿骨近位部骨折後に死亡するというのは、極めて自然なことなのです。
骨粗鬆治療による発症予防が重要
一か所の脆弱性骨折を生じた患者は、ほかの部位を骨折するリスクが高くなるという報告があります。ある意味で当たり前のことで、基本的に骨粗鬆症は一つの骨だけで起こるのではなく全身で起こっていることですので、一か所が折れた人は他の場所も折れやすいのです。
そのため、大腿骨近位部骨折の手術をした患者さんがしばらく後にまた転んで救急搬送されてきて、今度は反対側が折れていたということもよくあります。大腿骨近位部に限らず、脊椎椎体や上腕骨、橈骨、骨盤骨などの脆弱性骨折も起こしやすいです。
脆弱性骨折を完璧に防ぐ方法はありませんが、骨粗鬆の治療をおこなうことで発症率が下がるということが分かっています。骨粗鬆の治療法は多数あり、それぞれに一長一短がありますのでここでは割愛しますが、少なくとも脆弱性骨折後に何らかの介入を受けることは検討すべきです。
大腿骨近位部骨折の手術術式や骨粗鬆症の治療に関しては別途まとめようと思います。
①高齢化に伴って大腿骨近位部骨折は増加する傾向にある
②大腿骨近位部骨折の生命予後は不良である
③骨折後の死因は通常の死因と同様でまさに老化による自然経過である
④骨粗鬆症への介入を受けることで骨折を減らすことができる