スポーツ整形外科医たこぼうBLOG

整形外科病院勤務、ときどきスポーツ現場でも活動するドクターのブログ

そもそも、整形外科って何?

「整形外科」を聞いたことがない人は少ないでしょうが、何をしている科か詳しく答えられる人はいるでしょうか?

 

「骨や筋肉を見る科」でしょうか?

 

実はこの答えはおおむね正解であり、それ以上細かく答えるのは難しいのです。なぜなら、病院によって整形外科の守備範囲が違うからです。

 

Wikipediaには 四肢および脊柱疾患や外傷を中心に、骨・関節・筋肉を主に扱う外科学の一分野” と記載されています。

 

ほとんどの病院で、膝、肩、股、肘など大きな関節は整形外科が取り扱っています。脊椎も多くは整形外科ですが、脊髄があるために脳神経外科で取り扱っている病院も少なからずあります。また、手足の指は形成外科が取り扱っている病院もあります。実際、筆者の病院では脊椎は整形外科で、手の指は形成外科で、足の趾はどちらの科でも扱っています。

 

病気ごとに言うと、リウマチや骨粗鬆症を整形外科で診ている病院もありますが、筆者の病院ではリウマチはリウマチ膠原病内科が、骨粗鬆症は内分泌代謝内科が診療しています。

 

ここまで読んで、混乱している方も多いと思います。実際、筆者自身も転勤するたびに自分の守備範囲が変わるので最初は混乱してしまいます。

 

こうなる理由は、人体を明確に線引きするのが難しいからという部分が大きいです。

脳は間違いなく脳神経外科が担当しますが、脊髄は脳から伸びてきているもので、どこでも途切れてはいません(途切れたら麻痺になります)。便宜的に頭蓋骨と頚椎の間で境界線を設けて整形外科と脳神経外科の守備範囲を分けていますが、その境界を背骨と背中の筋肉の間に引けば守備範囲は変わります。手に関しても同じです。

 

リウマチや骨粗鬆症に関しては、いわゆる「内科的診療」が隆盛になっているため、整形外科から各内科にシフトしているところがあります。

例えば呼吸器科には呼吸器内科と呼吸器外科があり、消化器科も消化器内科と消化器外科に分かれています。先ほどの脳に関しても、脳神経内科脳神経外科に分かれていますね。しかしながら、「整形科」は基本的になく、「整形外科」のみです。同じように、内科と外科とに分裂していない科としては耳鼻咽喉科泌尿器科などがあります。このような状況において、膠原病内科や内分泌代謝内科がいわば「整形内科」的な役割を果たしているのです。

 

なぜリウマチや骨粗鬆症が整形外科から内科にシフトするかというと、様々な新薬がたくさん出た結果として内科治療があまりにも専門的になってきたということが背景にあります。

リウマチ治療はメトトレキサートの出現で革命的に変わりましたが、それ以降も分子標的薬の登場によってさらなる革命的変化が生じました。筆者が医師になるより前はリウマチで関節がボロボロになって手術する患者さんはたくさんいたようですが、今となってはそのような重篤な患者さんはゼロにならないものの非常に少なくなっています。

 

最近のリウマチの薬の多くは非常に優れた薬効を持っていますが、使用方法を誤ると重大な合併症を引き起こす可能性があります。それだけの複雑な薬物治療を手術業務の合間に行っていくことは、実際の整形外科においては極めて困難になってきたのです。今後も医学の進歩によって内科にシフトしていく疾患が増えると考えられます。

 

まとめると、「整形外科は骨や関節、筋肉を診るが、境目は不透明」ということになります。

皆さんが実際に受診される際には、担当医の専門分野や診療疾患について事前にウェブサイトなどで調べておくことをお勧めします。

 

それ以上にお勧めできる方法としては、開業医(町医者)の先生に紹介状を書いてもらって、可能であれば病院に地域枠の予約を取ってもらうという方法があります。開業医の先生は大病院とのつながりを持つことも多く、適切な専門医を紹介してもらえることが多いです。

 

開業医の先生を経由してから大病院を受診するメリットは他にもたくさんありますので、これについてはまたあらためて記事を作ります。