スポーツ整形外科医たこぼうBLOG

整形外科病院勤務、ときどきスポーツ現場でも活動するドクターのブログ

医師の給料 ~多い?少ない?~

みなさんは、医師の給料がどれぐらいか知っていますか?

 

少し古いデータですが、2009年の厚生労働省発表に医師の平均年収が記載されています。

それによると勤務医で1479万円、個人開業医で2458万円でした。ちなみに筆者はまだ若めの勤務医なので、平均よりだいぶ低いです。

 

医師の待遇は契約次第

一口に医師の給料といっても、勤務形態によりかなり異なります。

中堅の正職員待遇の医師であれば、基本給と賞与込みで上記の平均年収程度が見込まれます。ベテランの管理職クラスになると、管理職関連の手当てが支給されるものの時間外手当の対象外となることが多いため、超過勤務の多い病院・診療科であれば昇任したために総所得が減少してしまうということもあります。

 

研修医は多くの病院が非常勤待遇、または1-2年契約の期間雇用職員として採用しています。給与は都市部で月額30万円台が多く、年収総額で500万円程度、地方では高額となり年収1000万円に迫る病院もわずかながら存在します。

 

研修医以外の非常勤医師(いわゆるバイト医師)は概して高給であることが多く、都市部で日勤の外来バイトだと時給1万円前後、当直はほぼ呼ばれない病院で5万円~、対応の多いところで10万円程度が相場です。筆者の医局が取り扱っている案件の中には24時間で20万円というところもありますが、あまりの激務で大学院生達も挙って応募するわけではなく、皆で交代しつつそれぞれ2か月に1回程度勤務しているようでした。金額面だけでいうと非常勤のほうが有利となることが多いですが、疾病等での休職時の社会保障を含めて考えると、正規と非正規のどちらが良いか結論を出すのは難しいところです。

 

給与の内訳も契約によってさまざまで、年俸制としている施設もあります。筆者が以前国立病院機構の専攻医(初期研修終了後の3年間)として勤めていた際には、契約自体は9時-15時半の実働6時間契約でした。実態としては当然そのような短時間勤務となるはずもありません。部長の方針で(当たり前のことですが)超勤申請は実働分全て余すことなく申請していましたので、基本給よりも超勤手当のほうが高額となる月も多々ありました。非正規雇用のため賞与はないに等しく、夏の賞与は額面で12000円(念のため漢数字で表記:一万二千円)でした。今年から赴任した後輩に聞くと当時より若干改善したようですが、それでもわずかな改善にとどまるようでした。

大学病院勤務時はさらに低賃金で、当然のごとく賞与はありませんでした。もちろん勉強になることは非常に多く、今の仕事の役には立っていますが、仕事として大学病院に戻りたいかと聞かれれば、待遇が変わらない限り二度と戻りたくないと答えます。 

 

また、医局に所属する一般的な医師、特に若手~中堅においては、数年で別の病院に異動することが多いのですが、病院が変われば雇用主も変わるため、勤続にならないという問題があります。勤続にならないため異動するたびにさまざまな手続きが必要となり、給与面でも例えば退職金がほとんどないなど問題が多いのです。

 

医療関係業種と景気

医療関係業種の特徴として、景気に左右されにくいということがあります。景気が良いから旅行に行く、車を買うという人は多いですが、景気が良いから病院に行く、手術を受けるという話は聞いたことがありません。

ここ数年は景気がいいとされており(中小企業ではあまり実感がないとも聞きますが)、ときおり金融、商社系や一流メーカーに勤務する同級生に話を聞くと医師と同程度がそれより高給ということも多々あります。特に、正職員の賞与は年間4ヶ月強で変動が少ないため、景気の悪い時にはおトク感が出て、景気が良いほどおトク感が減るという逆転現象が生じてしまいます。医療関係は、良い意味でも悪い意味でも安定しているのです。

 

医師の支出

これまでに書いたように、非正規雇用や研修医世代でも医師の収入は日本全体の平均より多いということは間違いありません。では支出のほうはどうなるかというと、学会や研修会などにどの程度参加するかによって変わります。

例えば日本整形外科学会では、年会費が14000円、学術総会の参加会費が事前登録割引を使って21000円です。その他にも分科会のようにいくつも学会があり、それぞれに1万円程度かかります。筆者は2019年の日本整形外科学会学術総会に参加しましたが、交通費、宿泊費、参加費を総計すると1回の学会で8万円程度かかりました。

病院によってはこれらの費用に対して補助を出してくれるところもありますが、多くは上限設定や支給要件が設けられており、全額補助のところは非常にまれです。

 

外科系の診療科では当然手術のテクニックを磨くためには訓練が必要ですが、訓練の一つとして献体(お亡くなりになった方の遺志により大学等に寄付された御遺体)を用いて手術練習を行うこともあります(カダバートレーニンと言われます)。

日本では献体数が十分でないため、海外(アメリカ、東南アジア、オーストラリアなど様々)にいってトレーニングをうけることもあります。かつては医療機器メーカーがスポンサーとしてついてくれており交通費を含め全額無料のものもあったようですが、現在では現地2泊3日のトレーニングコースで20-30万円程度(交通費別)となることが多いです。

 

他にも教科書も高額で、安いもので数千円、1冊1万円超えの本も珍しくありません。例えば骨折治療の聖書ともいえるAO法骨折治療という本は1冊で4万円ほどします。

これらの費用を総計すると安くても十万円以上、人によっては百万円に迫ることもあろうかと思います。 勉強し、技術を磨こうと思えばそれだけ費用がかかり、多くの場合は医師個人の自己負担になります。

 

 

今回書いたように、医師は収入も多いですが支出も多く、収入が多いことによって行政の助成金や減免措置を受けることができなくなるため、非医療者の方々が思っているほど自由になるお金は多くないのが現状です。

自由になるお金を増やそうとすると、世間が思い描くお医者さん像とは離れた仕事を選択していく必要があるのです。

 

自分の子供が医者になりたいと言ったら止めはしませんが、積極的にすすめることもしないかな、というのが現在の思いです。