スポーツ整形外科医たこぼうBLOG

整形外科病院勤務、ときどきスポーツ現場でも活動するドクターのブログ

熱中症の危険度と相関する暑さ指数WBGT

本格的な暑さが続き、全国で熱中症患者が多数発生しています。

そのような時季なので、今日は熱中症の危険度と相関する暑さ指数WBGTについて記事にしました。

 WBGTとは?

WBGTは Wet Bulb Globe Temperature の略で、日本語では湿球黒球温度といわれています。

測定機械では、湿球温度、黒球温度、乾球温度の3つを測定して、それらからWBGTを計算して求めています。

 

湿球温度は、温度計の球のところに湿ったガーゼを巻き付けて計測したもの、黒球温度は黒い銅板でできた約15㎝の球の中の温度、乾球温度は普通の温度計で普通に測った温度です。

 

屋外では、

WBGT=0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度

屋外では

WBGT(℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度

これらの式で求めます。

 

例えば、屋外で湿球温度が30℃、黒球温度が45℃、乾球温度が35℃であったとすると、

WBGT=0.7 × 30 + 0.2 × 45 + 0.1 × 35 = 33.5℃となります。

 

湿球温度と黒球温度の意味

湿球温度

温度計の球の部分に水を含んだガーゼを巻いていますので、表示される温度は水分の蒸発で冷やされる分だけ乾球温度より低くなります。湿度が低いほど水分が蒸発しやすいですので、その分だけ低い温度が表示されることになります。

体感温度との関係では、皮膚の汗が蒸発することで実際の温度より多少涼しく感じるという現象を反映しているといえます。「暑いけどカラッとしていて過ごしやすい」とか、「気温のわりにジメジメして暑苦しい」というのは湿球温度的な感覚と言えましょう。

 

黒球温度

黒球温度は黒い銅板の中で測っていますので、直射日光で黒いものが暖められればその分だけ乾球温度より高い温度が表示されることになります。球の中なので風もなく、こもった温度を測っている状態です。

体感温度との関係では、直射日光が当たる分だけ気温より厚く感じるという現象を反映しているといえます。「まだ気温は高くないが日差しが強くて暑く感じる」とか、「暑かったのに曇りがかってきたから少し涼しくなった」というのが黒球温度的な感覚です。

 

WBGTと熱中症の関係

WBGTは湿度と日光の影響を加味して算出した温度といえます。先に書いた数式をみるとわかりますが、湿球温度にかかる係数が大きく、つまりWBGTに与える影響は湿度が大きく、次いで日光ということになります。

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このグラフをみると明らかなように、WBGTが30℃に近づくと熱中症発生率が高まります。当然気温が高い状況ではスポーツによる熱中症リスクも高まります。下記の表のように、高温時にはスポーツの中止を含む対策が推奨されています。

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ただ、夏場では容易にWBGTが31℃を超えてしまいます。スポーツ大会の日程はどうしても過密なものが多く、特に学生レベルでの試合は夏休み中にまとめて行われることが多いため、中止しづらい状況になっています。

筆者が関係しているスポーツの中では、例えばテニスでは「ヒートルール」というものがあり、WBGTが31℃を超えた場合にはファイナルセット前に追加の休憩を許可したり、ファイナルセットをタイブレークにして時短を図るなどの措置がとられます。また、大会ドクターの診察で熱中症と診断された場合は、ドクターの権限によりリタイアを宣告することができます。ドクター不在の大会でも、症状ごとにスコアを定め、基準以上の症状があればレフェリーの権限でリタイアさせることができます。

もちろん高温環境下で大会を行わないでよいように大会時期を工夫するなどの仕組みを作るのが望ましいのですが、学業などの関係もあり一朝一夕に変えられないというのが現状です。

 

まとめ

①WBGTは湿球、黒球、乾球の各温度から計算されている

②WBGTは湿度による汗の蒸発度合いや直射日光による暑さを反映している

③WBGTが高くなると熱中症の危険性が高くなる

④今後は高温環境下でのスポーツを避けられるような仕組みづくりが必要