スポーツ整形外科医たこぼうBLOG

整形外科病院勤務、ときどきスポーツ現場でも活動するドクターのブログ

ドーピング違反とならないために特に注意すべき薬剤

これまでにアンチドーピング規定や特に注意すべき事項についての記事を書きました。

過去2回分の記事はこちら

takobow.hatenablog.jp

takobow.hatenablog.jp

一般的によく使われる薬の中にも禁止物質が含まれるものが多々ありますので、今回は注意すべき薬剤・物質について解説します。

  

総合感冒薬(かぜ薬)

総合感冒薬は一般の診療所でよく処方される薬であり、またドラッグストア等でOTC医薬品としても購入可能なものが多数あります。通常の感冒薬は熱さまし、咳止め、痰切りなど複数の効果を持たせるために複数の物質を含有しています。その中にエフェドリン系の興奮剤が含有されているものも多数あり、このエフェドリンを含む感冒薬を服用しているとドーピング検査に引っ掛かります。

類似した名称の製品であっても微妙に成分が異なり、片方はOKでもう片方はNGということもあります。

たとえば、大正製薬パブロンSゴールドW錠®は2019年現在使用可能ですがパブロンゴールドA®は禁止物質であるエフェドリンが含まれています。同様に、エスエス製薬の新エスタックW®はOKですが新エスタックゴールド®はNGです。

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ぜんそく治療薬

ぜんそく治療薬は禁止物質が含まれていることが非常に多いです。内服薬や点滴のみならず、吸入にも禁止されている成分が含まれることに留意しなくてはいけません。

ぜんそく治療の主体として使われている一部のベータ作動薬とステロイドに関しては吸入でのみ使用が認められています。ベータ作動薬の一部は吸入ですら使用が禁止されており、使用する場合にはTUE申請が必要ですが、まず受理されないでしょう(代替可能なベータ作動薬が存在するため)。代表的なものには、メプチン®という吸入があります。非常にメジャーな吸入薬ですが、禁止物質です。また、ベネトリン®吸入は認められていますが、錠剤の内服は禁止されています。

 

漢方薬

漢方薬は要注意です。漢方薬は生薬の組み合わせで作られますが、その生薬のいずれかに禁止物質が含まれていればドーピング違反となります。例えば麻黄にはエフェドリンが含まれていますので、仮にパッケージにエフェドリンの記載がなくとも、麻黄が含まれていればドーピング検査に引っ掛かってしまいます。

麻黄が含まれる漢方は多数あり、有名なところでは葛根湯や小青竜湯、八味地黄丸や牛車腎気丸などがあります。

 

服薬した薬のパッケージは残しておいたほうが良い

これまでさんざん注意事項を記載しましたが、2018年に元も子もない事件が起こりました。

エカベトという全く禁止されていない胃腸薬を使用したレスリング選手がドーピング陽性となったのです。当然、その選手にはなんら心当たりがなく、検査の少し前に内服していたエカベトのパッケージが残っていたので遡って調べると、インドの原薬(薬の元となる有効成分からなる主原料)製造ラインで利尿薬のアセタゾラミドが極めて微量混入していたのです。

同一の製造ラインで作ったために混入していましたが、混入したアセタゾラミドの量は、原薬の品質に関する国際基準をクリアする量であり、製造過程に規則違反は無かったのです。

原薬の品質に関する国際基準よりも、ドーピングの検出基準のほうが厳しいために、正当な薬剤使用にもかかわらず引っ掛かってしまった極めてまれなケースです。当該選手は正当な使用過程での不可抗力であったことが証明されたため、資格停止処分を解除されましたが、エカベトのパッケージが残っていなければ無実を証明できなかった可能性があります。

これは稀なケースですが、アスリートは自分を守るためにそこまでしておくことが望ましいと思われます。

 

ここに記載しているもの以外にも、禁止されている物質・方法は多数あります。発毛剤やニキビの薬にも禁止物質が含まれていることがあります。薬剤を使用する際には、アスリートの自己責任にて確認が必要です。また、医療者も正しい情報提供ができるように留意してください。

 

最後に、日本スポーツ協会の代表的な2019年使用可能薬リストのリンクを掲載します。

https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/antidopinglist2019.pdf

ここに載っていない薬剤でも使用可能なものはありますので、詳細は規定を確認する必要はありますが、平時のかぜ症状などでとりあえず使う薬としてはここに載っているもので十分対応可能と思われます。

 

まとめ

・かぜ薬やぜんそく治療薬でドーピング違反となる可能性がある

漢方薬も禁止成分が含まれていることが多く、注意が必要

・軽微な体調不良や外傷であれば無投薬経過観察も有力な選択肢

・ただし、医療者は必要な時に必要な治療をためらってはいけない